経済

工具窃盗の急増:英国の職人の生活を脅かす犯罪

英国の職人たちが、かつてない規模で工具窃盗に苦しんでいる。この犯罪は、彼らの生活を脅かし、経済的な打撃を与え、仕事への不安を増大させている。最新のデータは、この問題の深刻さを浮き彫りにしている。

ソーシャルメディアで人気を博したデコレーターの苦境

ケビン・ティングレーは、TikTokやInstagramで「Paint Warrior」として知られる39歳のデコレーターだ。彼のテクニックは多くのファンを魅了し、独自のブラシも販売している。だが、彼でさえ、英国の職人たちを襲う最大の脅威、工具窃盗から逃れることはできなかった。ボクシングデーの朝、彼の車のドアがこじ開けられ、貴重な工具が盗まれた。この事件は、彼が1月から2月の予定していた仕事を全てキャンセルせざるを得ない状況に追い込んだ。

窃盗犯は、高価な集塵機、電動工具、スプレーガンなど、現代のデコレーターにとって不可欠な道具を盗んだ。息子と娘を従業員として抱えているティングレーは、賃金を支払い、家計を支えるために、なんとか仕事を探さなければならなかった。直後がクリスマスであり、家族の誕生日が1月に集中していることも重なり、経済的な状況はさらに悪化した。

警察に通報したが、当初は事件番号だけを受け取ろうとした。しかし、近隣で同様の事件が多発していることが判明し、より詳細な調査を要求した。CCTV映像から窃盗車のナンバープレートが特定されたものの、2ヶ月以上経っても進展はない。ティングレーは、諦めかけており、残りの1年間を必死に働いて損失を取り戻すしかないと考えている。窃盗による損失は1万7千ポンドに上り、睡眠不足で精神的にも疲弊している。工具を保管するためにセキュアな倉庫を借りることも余儀なくされた。

工具窃盗の現状:80%以上の職人が被害に

工具窃盗の現状:80%以上の職人が被害に

英国では、80%以上の職人が工具窃盗の被害に遭ったことがあるという。関連する費用、つまり工具の損傷、交換、仕事の損失を合わせると、その総額は数億ポンドに達する。2023年のDirect Lineビジネス保険の調査によると、平均して12分ごとに工具が盗まれるという。この数字は、その深刻さを物語っている。

多くの職人は、保険制度が高額である、または保険金が支払われない可能性があるため、盗難を報告しない。警察への捜査依頼も、2%の盗難工具しか発見されないため、期待できない。この状況は、さらに悪化しているだろう。

組織的な犯罪グループの関与

組織的な犯罪グループの関与

ロンドンのハヴェリング区で働くメトロポリタン警察のマーク・コノリー警部は、工具窃盗対策の合同タスクフォースの一員である。彼は最近、イロフォードにある物件への捜索を行い、推定200万ポンド相当の盗難工具を発見した。これは、英国史上最大の工具窃盗事件である。

コノリー警部は、ダブリンのシドカップや周辺地域で同様の活動を行うデーブ・キャットロー警らと協力している。数年前、彼らはロンドンやエセックスのフリーマーケットを巡回し、工具の販売状況を調査していた。そこで、盗難工具が赤、黄、青のストライプで並んでいるのを発見し、組織的な犯罪グループが関与していることを確信した。

キャットロー警部によると、窃盗犯は、電動ドリルやノコギリなどの携帯用工具だけでなく、測量機器や掘削機などの大型機器も盗むようになってきている。これらの機器は、しばしば海外に輸出されている疑いがある。また、虚偽の会社を設立し、専門的な機器をリースした後、返却しない手口も使われている。

キャットロー警部は、ホームオフィスが資金提供する全国ビジネス犯罪センターで新たな役割を担うことになった。小売犯罪や倉庫盗難との関連性にも注目しており、同じ犯罪グループが工具窃盗だけでなく、触媒コンバーターや鉄道沿線からの銅ケーブルの盗難にも関与している可能性がある。彼らは、警察が成功を収めると、戦術をすぐに変更する。

キャンペーン活動と政府への働きかけ

キャンペーン活動と政府への働きかけ

フランク・ウィリアムズは、ロンドンの北部の窓修理業者で、2022年11月に工具を盗まれた。その経験から、Stolen Tools UKというFacebookページ、Instagramアカウント、ウェブサイトを立ち上げ、被害者同士が支援し合える場を提供した。当初は問題への関心を高めるためだったが、今では20万人のフォロワーを持つまでに成長した。

また、ショウバイブ・アワンは、配管業者で「The Gas Expert」としてソーシャルメディアで活動している。工具窃盗の被害者となり、オンライン署名活動を開始。4万6千人の署名を集め、議会での議論を求めるまでになった。彼は、Trades Unitedというキャンペーングループを設立し、直接的な行動を起こした。2024年6月には、タンクをレンタルし、200人の職人たちとともに、ブレントクロスから国会議事堂までデモ行進を行った。彼は、政府がより具体的な対策を講じることを求めている。

これらの活動を通じて、多くの国会議員がこの問題に注目し、フリーダム党のロバート・ジェンリック議員は、フリーマーケットでの工具販売を禁止する法案を提唱している。

職人たちは、政府がこの問題に関心を示していないと感じている。しかし、建設業が労働力全体の9%を占め、英国経済に1300億ポンド貢献することを考えると、政府にとって有権者獲得のための優先事項となるべきだろう。

警察が捜査を進め、政府もようやくこの問題に取り組む姿勢を見せ始めたことで、職人たちは希望を見出している。キャットロー警部は、工具をSelectaDNAでマークすることが重要だと強調している。これは、万が一盗難が発生した場合に、警察が工具の所有者を特定するのに役立つ。

ガリー・ロスは、小規模ビジネス向けの保険を専門とするBlip保険のCEOであり、保険の重要性を強調している。また、車の鍵をアップグレードしたり、セキュアなケージを設置したりすることも有効である。最も重要なことは、保険契約書をよく読み、工具の在庫を詳細に把握しておくことだ。

ハチフォードシャー州では、工具窃盗の件数が3年連続で減少しており、対策が奏功していることが示されている。

この問題は、英国の職人たちの生活を脅かし続けている。しかし、警察の捜査、政府の取り組み、そして職人たちの意識向上を通じて、この犯罪の撲滅に一歩近づくことができるだろう。

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